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山んばのにしき
松谷みよ子著 講談社 青い鳥文庫 日本の昔話 (民話ですから、自由に言い換えて語っています。これは私バージョンです)


昔あるところに、ちょうふくやまという、高い山があった。
夏のカラッと晴れた日でも、てっぺんには厚く雲がかぶさっていて、晴れるということがない。
恐ろしい山んばが住んでいるという話であった。

ある年の秋のことだ。ちょうど十五夜だったもので、麓の村ではみんなお月見をしておった。
ところが、空がにわかにかき曇って、風は吹き出す雨は降り出す、しまいには雹までもが音を立てて落ちてきたから、子供らは怯えて、おっ母さんにしがみついとった。
すると、家々の屋根をドロドロと踏み鳴らしながら、叫んで歩く声がした。
「ちょうふくやまの山んばが~ 子供産んだで~ 餅ついて持ってこう~ 持って来ねば、人 馬ともに食い殺すど~ 」
誰ともしれぬ暴れ者は、家々の屋根に飛び移りながら叫んでいたが、やがてその声も聞こえなくなると、空は又カラッと晴れて、元の月夜にもどった。

翌朝、村人たちは早くから戸を開けて、夕べのことを話し合った。
「おっかねかったな~ 」
「あの暴れもんはなんだべ?」
「餅持ってこねば、人馬ともに食い殺すいうとったなあ。どうするべ? 」
どうするべたって、食い殺されちゃあかなわない。餅持って行くしかない。
一軒いくらと米出し合って、ぺったらこぺったらこと餅ついた。それを、はんぎり二つに入れたんだが---それを山姥のとこまで持って行く者が居らん。
何しろそんな恐ろしい山に登ったことのあるものなんぞ一人もいないからだ。
その時誰かが言った「だだはちと、ねぎそべの二人に行かせべえ。あいつらいつも威張ってるから」
すると、村中のもんが「そうだそうだ、だだはちと、ねぎそべにいかせべえ。あいつらいつも威張ってるから、こんな時こそ村の役に立ってもらうべえ」と、たちまち決まってしまった。

だだはちと、ねぎそべというこの妙な名前の若者たちは村一番の暴れ者で、いつも威張って居たために、えらいことになったと思ったが、ことわることもできない。
「だどもおら、道知らねえし」
「んだ、道案内いねばなあ」と言うので、今度は誰が道案内に立つか相談した。
けれども。道を知っている者がいるはずもない。
その時、みんなから"あかざばんば"と呼ばれている、えらく年取った婆さまが出てきて、
「だば、おらが案内すべえ。なあに、行こうと思やあ、道なんざなんぼでも有るもんだ」と言った。

そこで、あかざばんばを先頭に、だだはちと、ねぎそべが、餅を担いで、ちょうふく山に登って行った。

だんだん登ってゆくと、みんなの家が、豆粒のように見えてきて、どんどん心細くなってゆく。
そこへ、血生臭いような変な風がごお~と吹いてきた。だだはちもねぎそべも、
「おらもう!ダメだあ~」と、あかざばんばにしがみついた。ばんばは、
「なんのなんの、何ともないと思やあ、何ともないもんだ。さあさ、元気出して、行くべ行くべ」と、力あつけてまた登り出した。

しばらく行くと、さっきの何倍もの強い風がごうごうと吹いてきたので、体のちいちゃなあかざばんばは、吹っ飛ばされちゃあかなわないと、這いつくばって、木の根っこにしがみついとった。

風やり過ごして、ふと振り返ると------だだはちも、ねぎそべも、姿が無い。餅の入ったはんぎりが、二つ重ねてじゃんと置いてあるだけだった。
あかざばんばはがっかりして、へたへたと座りこんだ。
「どうすべえ? おらまでここから逃げて帰っちまったら、村の衆が食い殺されちまうかも知れん。それじゃあ申し訳が立たねえ。
んだ、年寄りのおら一人が、食われりゃあ済むこんだ」
腹をくくると、また一人で登って行った。
けど、年寄りの足だ、ちーっと登っちゃあ休み、ちーっと登っちゃあ休みして、山のてっぺんが見えてきた時には、日も落ちかけていた。
てっぺんのちっと下に、戸口にむしろをかけた小屋があって、前で、大きな赤ん坊が、自分の頭ほどもある石をおもちゃにして遊んどった。あれが、山んばの家だなと思って、あかざばんばは声を掛けた。
「ごめんくだせえ、麓の村から餅持って来たっす」すると、むしろをかき上げて、山んばが顔を出した。
「おうおう よう来たよう来た。
いや、ゆんべなぁ、この子を産んで、急に餅が食いたくなったもんで、この子を使いに出したんだが、 村の衆に迷惑かけなかったかと、気にしてたとこだ」
あかざばんばはたまげちまった。
「ひえ~ 、ゆんべ、使いに来たのは、この子なんで?」
「山んばの子だもん、うまれりゃあすぐ飛び歩く。-------で---餅は---どうした?」
「へえ、その餅だが、あんまり重てえんで、途中さ置いてきた」
「ほうかほうか、がら、がら、お前行って取ってこう」赤ん坊の名前はがらというらしい、がらは立ち上がるとすごい勢いで走って行ったが、じきにはんぎり二つかかえて帰って来た。
「おう、帰ったか、こんだ、熊獲ってこう、熊のすまし汁こさえて、餅入れるだ。ばんばにもごっつおうするだ」
がらはまた走って行って、じきに熊ぁぶら下げて帰って来た。
それからは火をぼんぼん焚いて、熊のすまし汁作って、餅をどっさり入れた。
あかざばんばも腹一杯食べた。
「はあ、えらいごっつおうだったことぉ、それじゃあ、おらはこれで帰らしてもらいますけえ」と言うと、
「まあ、そう急ぐこともあるまい。ここにゃあ手伝いも居らんことだし、21日ほど、手伝ってってくれやあ」と言われて、あかざばんばは諦めた。
それからは、水を汲むやら、山んばの脚を揉むやらして、今日は食われるか、明日こそは食われるかと、びくびくしながら、21日が過ぎた。そこで恐る恐るいった。
「あのぉ、家で心配してるで、帰りたいどもぉ」すると、
「おうおう、世話になったなあ。家の都合もあろうから帰ってくれ」と言って、奥から反物を出して来た。
「礼にする物もねえが、錦を一反やるべ。このにしきはな、なんぼ使っても次の日になれば元の長さに戻っている、ふしぎな錦なんだ。
村の衆には何もねえが、この先風邪一つ引かねえように、楽ぅに暮らせるように、こっちから気をつけておくで。
がら、がら、ばんばを負ぶって送ってってやれ」あかざばんばはあわてて、
「おぶさるなんて飛んでもねえ、歩いて帰りますけぇ」といったが、がらはばんばをひょいと背中に乗せると、
「目、つぶってれっ 」と言った。耳のはたを風がびゅうびゅう抜けると思ったら、すとんと降ろされたところは、もう、あかざばんばの家の前でした。
「がら、がら、寄って休んでいけや」声をかけたが、あたりにはもうがらの姿は無かった。
ばんばが家に入ろうとした時、中から大勢の声で、 なんまいだぁなんまいだと、お経を唱える声がした。どうやら葬式をしているらしい。
あかざばんばはたまげて、
「誰か死んだのかや?」と、駆け込んで行った。中にいた村人たちは、
「ひえ~ 幽霊だ! 魂が帰って来た!」と、目を回すやら、ひっくり返るやら、えらい騒ぎになった。
「幽霊なものか、あかざばんばが今帰ったぞ」
「ほんにあかざばんば、生きていたんだかぁ」村人たちは涙を流して喜んだ。
「さあさあ、山んばのにしき分けてやっるけえ」と、あかざばんばは錦を切ってはわけ、切っては分けして、自分の手元には、わずかしか残さなかった。けれども、次の朝には、錦は元どおりの一反に戻っていた。
村人達は、もらった錦を袋に縫ったり、ちゃんちゃんこにしたりして、家宝にした。

それからはみんな風邪一つひかずに、安楽に暮らしたということじゃ。 おしまい。
a0050728_1221431.jpg


昨日語って、受けたので、腰痛も吹っ飛んだのは、この物語でした。

あかざばんば大好きです。


[追記]
あかざばんばって、勇気があって、智慧があって、自分は食われても、村人を守ろうという、気高い情熱がありながら、---でもやっぱり、食われるのは怖くて、毎日ビクビクして居た---っていうところが好きですね。
大好きなお話幾つもありますが、このお話はあかざばんばの魅力で生き生き語れます。
だだはちと、ねぎそべが、どんな顔して暮らしているか、想像すると、愉快ですしね。




ーーー
by hisako-baaba | 2013-11-18 12:06 | Comments(12)
Commented by juju3291 at 2013-11-18 16:19
★元気ばば★
読みました
すごいな~
Commented by marsha at 2013-11-18 17:08 x
「山姥のにしき」読ませて頂きました。 とても良意お話でした。ハッピ−エンドで最後にみんなが幸せにくらせるのが 良いですね。
Commented by hisako-baaba at 2013-11-18 21:10
元気ばばさん
追記にも書きましたが、素敵でしょ。
Commented by hisako-baaba at 2013-11-18 21:12
marsyaさん
ハッピーエンドのお話ばかり選んじゃうのですよ。
悲劇は嫌い。
Commented by 花てぼ at 2013-11-18 21:50 x
こんばんは。楽しくて腰痛もふっとぶ。素晴らしいことですね。
もし、私が一つのお話を「語る」ことができたとして、二つ目を覚えようとすると、もう前に覚えたものは頭から吹っ飛んでしまいます。
自分なりにアレンジするにしても、それを淀みなく語れるというのは私にとって神業にしか思えません。
こう言う私は、第一、覚えようとしたことが無いのです。最初から「朗読」一筋で行くことを決めてしまっていたので、その頭の構造になっていないと言うことも言えます。
hisakobaaba 様にはとにかく、いつも感心しています。
Commented by hisako-baaba at 2013-11-18 22:35
花てぼさん
私は創作物は語れません。許可を得た 粂市の本以外は。

民話なら、本の文字を追わなくて済みます。中身を覚えて、好きなようにしゃべる。言葉で覚えていないから、楽です。
三つでも四つでも、続けて語れます。
昔の語り手は、本から覚えたわけじゃない。よそで聞いてきて、それを自分の村で語る。内容は、語り手の好きなように変化してゆく、それが民話でしょう。
私も遠慮なく、自分の言葉にしています。

朗読は昔から好きでした。語りに出会ったのは75歳9か月の時。
語ってみたい、聴き手の顔を見て語りたい。と思ったのが初めでした。
貴方もお出来になりますよ。
Commented by nagako1953 at 2013-11-18 22:51
久子さんこんばんは。山姥のにしき いいですね〜。すきだわ。かたりできいてみたくなりますね
Commented by hisako-baaba at 2013-11-19 05:03
nagakoさん
ご自分で語ってみてください。声に出すと楽しいですよ。
セリフは、声を変えて。
Commented by 78歳のジジ at 2013-11-19 13:01 x
話の内容は分かっているのに、やっぱり引き込まれてしまいました。

山姥は「怖い」という先入観があります。固定観念から解放されることの大切さを学べたし、年寄りの知恵や覚悟のすごさも学ばせてもらいました。
それに、型どおりの勧善懲悪語りでもないところも好きなところでした。

あかざばんばが、hisakoさんと重なってきました。

Commented by tabigarasu-iso at 2013-11-19 13:43
ほっとしました。
ハッピーエンドは良いものですね。
感謝
Commented by hisako-baaba at 2013-11-19 17:07
ジジさん
みんな幸せになる話は嬉しいですね。
夜語りで語った時お客さんから、「あかざばんばになり切ってましたね」と言われたのが一番嬉しかったです。
Commented by hisako-baaba at 2013-11-19 17:08
tabigarasuさん
としとったら、もうドロドロした悲劇はかたりたくないです。
最後にホッとするのが良いですね。
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