嫁の草取り 藤田浩子著 一声社刊 「女の底力」より再話
昔、ある所に、爺様と、婆様と、息子と住んでる家有ってな、息子の所になかなか嫁様来てくれなかった。まあちいっとゆうずうのきかねえ息子ではあったんだが、それほど馬鹿っつう訳でもねえ。だから村の人が、嫁様世話してくれたんだがなぁ、世話してくれたことは呉れたんだが、ほれ、あの仲人口ってやつでな、その若え嫁様、騙されて来ちまった訳だ。
「なんだべ、おら騙されちまったぁ。こおだつまらねえ婿様ンとこさ来ちまって・・・
こおだとこには居たくねえ。何とかこう、追い出されるようにすっぺ」って思ってな、
飯い炊くときはすこおし焦がしてみる、汁う作るときは、味濃くしてみたり、薄くしてみたり、ちいっとも旨えものこしゃぁねえように、こしゃあねえようにしてたんだけんどもなあ。そのやの姑おっか様っつう人はな、嫁の気持ち解ってだか何だか、何やってもごしゃかねえ。
「いやあ今日の味噌汁は、ほれちいっとからいようだけんども、これだけ辛い味噌汁食っとけば、なんぼ稼いで汗出してもでぇじょうぶだなん」なんて言ってごしゃかねえ。薄い味噌汁飲ませれば、
「いやあ今日の味噌汁は、これ 年寄向きだなん」なんて言って飲んじまう。焦がした飯出せば、
「いやこの焦がした飯っつうのもなかなか旨めえなん」なんて言って、醤油掛けて食っちまったりするもんで、なかなか追い出してもらえねえ。
そうこうするうちに夏になって、田の草取り始まったと。田の草取りと言うのは、汗は流れる、穂先はちくちく顔に刺さる、腰は痛くなる、まんず辛い仕事だもんで、嫁様、「いやあ毎日毎日田の草取りするのはせつねえなあ」と思いながら、
「ほおだ、田の草取りすっときに、うんと引っ掻き回してやれば、稲が倒れたり、根っこ切れたりして、ほおで、あの嫁は悪い嫁だということになって、追ん出して貰えるかもしんねえ」と、思ったもんで、嫁様、田の草取りするときにまあ、田の中引っ掻いて引っ掻いて、稲の根が切れっちまうんではねえかと思うぐれぇ引っ掻いたんだと。
したれば秋んなって、その家の田んぼからまあずっぱり米が穫れたんだと。稲つうのは、田の草取りすっときに、田の中うんと引っ掻き回しておけば、水ン中新しい風入るし、根がしっかり張って、ほおで米がいっぺえ穫れるんだと。ほうでまあ、姑おっか様が、
「いやいや、おらえの嫁は、田の草取りすっときに、力惜しみしねえで、根の方まで掻くもんで、根がしっかり張って、米いっぺえ穫れた。良い嫁だ、良い嫁だ」と」褒めまくったんだと。
柿の皮ぁ厚く剥けば、漬物に入れるのに丁度いいと褒められ、芋の皮ぁ厚く剥けば、兎や鶏に食わせるのに良いと褒められるし、まんず、何やっても褒められるもんで、その嫁様、出て行くきっかけ掴めねえで、そのままずーっと、その家で姑おっか様と仲良くくらしたんだと。 おしまい
私の解釈。
このおっか様は、初めから嫁の気持ちをお見通しだったのでしょう。
嫁の来手が無かった息子には、いま一つ魅力が足りないと分かっていて、やっともらえた嫁を逃がしてなるものかと、一生懸命だったのだと思います。
何でもポジティブに考える賢いおっか様ですね。
このお話を今稽古しています。
ーーー