「うまと いぬと ねこと にわとりの旅」(ブレーメンの音楽隊を下敷きにしたお話ですが動物たちは決して捨てられたものでは無く、落ちぶれた飼い主が泣く泣く手放したものたちです。お話の終わりがブレーメンと同じく、4匹が独立して暮らすことになっていましたが、元の飼い主のところに戻るのが一番良いと私は思うので遠慮なく変えて、お金や宝を持って帰って行く終わり方にしました)
うまと いぬと ねこと にわとりの旅 大川悦生著子どもに語る日本の民話 より 再話。
あるところに、広い屋敷を持ったお金持ちの家があって、馬と犬と猫と鶏が飼われておりました。
ところが、お金持ちの主人が、商いにしくじったようで、急に落ちぶれてしまい、雇われていた人たちもみんないなくなりました。
「後に残ったのはお前たちだけじゃ。いつまでも可愛がってやりたいのじゃが、この通り貧乏になったけえ餌も買うてやれん。悪いが、ここを出て好きなところに行ってくれ」ある日主人がほろりと涙をこぼしながら、馬と犬と猫と鶏に言いました。
「どうするにゃあ、困ったにゃあ」猫が言えば、他の仲間も心細い声でケッココー、ワワーン、ヒィヒン言うて、頭をつき合わせて相談しました。
けれども「好きなところへ行ってくれ」と言われたら仕方がありません。
「ご主人様、長いことおせわになりました。どうかお達者で暮らしてください」というと4匹揃って旅に出ました。ちょこちょこ、テコテコパカパカと行くと地主様らしい大きな家がありました。そこで馬が頼みましたと。
「わしらの仲間を見てつかあさい、毎日卵は産むし、ネズミはとるし、泥棒の番をするし、このわしときた日にゃ、鋤を引っ張って田おこしができるし、重い荷運びもできる。4匹一緒に雇うてくださらんじゃろか」するとその家の主人は
「うちにゃあ良い牛がおるし、犬も猫も鶏もおるけえ」と言うて断られてしまいました。
当てが外れた四匹は、またちょこちょこテコテコパカパカと、道端の草などを食べながら歩いて行きました。
今度は犬が言いました。
「俺たち軽業か芝居をしたらどうじゃろ。鶏どんは高く飛べるし、猫どんは木登りが得意じゃし、おいらは速く走れる。それに馬どんは力があって蹴飛ばしたら天まで飛ばせるけぇ」
「そりゃあええ。町へ行こう」4匹が町へ行くと、ちょうど芝居小屋が建っていて、軽業師の看板も出ていましたから、4匹一緒に雇ってくれと頼みました。
「そんならあんたら何ができるかやって見せぇ」座長に言われて鶏は芝居小屋のてっぺんに飛び上がり、猫はあっという間に柱をよじ登り、犬は矢のように駆け回り、馬は芝居に使う人形を屋根より高く蹴り上げました。けれども座長さんは首を振って、
「そがあな芸ではお客さんから木戸銭は取れんけぇ、他へ行きんさい」と言うて、また断られてしもうたと。4匹はすっかり力を落とし、もうどこへ行くと言う当てもなく歩き続けました。はじめに鶏がくたびれて歩けなくなりました。次に猫がくたびれて犬もくたびれて座り込みました。
馬だけが草をたくさん食べてまだ元気でしたから、鶏と猫と犬は、馬の背中に乗せてもらいました。
ねぐらを探して森に入ると、明かりのついていない一軒家が有りました。鍵もかかっていないし、物置部屋には木の箱だの藁だのがどっさり有りましたから、
「こりゃあええ。ここに泊まろう」と、4匹はそこに潜り込んで眠りました。
真夜中ごろ、ガラガラ、わやわやとけたたましい音や人の声がしました。覗いてみると、おっそろしい顔つきの男どもが7、8人も入ってきて、いろりに火を焚き、酒盛りを始めました。それからかつぎこんだ袋を開け、盗んできたお金や宝物の自慢をしあいました。
「ココ、怖いよう!」鶏が言い、
「早く逃げにゃあ、捕まってしまうにゃあ」と猫も言いましたが、犬と馬は、「待て待てあいつらは盗賊どもじゃ。こっちにも考えがあるけえ、待ってくれ 」
しばらくすると盗賊どもは酔っ払って居眠りを始めました。
そこで馬どんが言いました。
「わしの背中に犬どんが立つんじゃ、犬どんの背中に猫どんが立って、猫どんの背中に鶏どんが立つんじゃ。そして合図をしたら、ありったけの声で鳴き立てるんじゃ、ええな」
そこで馬の上に犬が登り、犬の上に猫が登って、猫の上に鶏が飛び上がって、一斉に、
「ヒヒーンワオンニャアトテッコー。ワオンニャゴロートテッコーヒヒーン」と一度に大声で鳴き立て、おまけに馬がドタドタと床をふみ鳴らし、バリッと板戸を蹴り倒し、木箱をいくつも盗賊どもの方へ蹴り込みました。
「うひゃー!化けもんが出た!」
盗賊どもは寝ぼけ眼で、何もかも置きっ放しにして逃げて行ってしまいました。
次の朝、盗賊どもが置いて行ったお金や宝物を馬の背中に乗せ、4匹は意気揚々と元来た道を引き返して行きました。
「さあ帰ろう!元のご主人様のところへ」