石が岳の青鬼 (山口県の伝説)

石が岳の青鬼・・・・周防徳地のななふしぎ より

昔、周防徳地地方は、日照りと、大雨に襲われて苦しみ続けておった。
雨が一滴も降らず、田畑が枯れ果てたと思うと、いきなり土砂降りの大雨が続いて川が氾濫し、家も田畑も流されてしまうのじゃった。
そのため作物は実らず、その日の食べ物もない有様だった。村人は山に分け入り木の実を探し、松の皮を剥ぎ取り赤土と混ぜて雑炊にした。

困り果てた村々の主だった人々が相談して、占い師に占ってもらうことにした。
津和野で名高い占い師に見てもらうと、
「これはただの雨や日照りではない。青鬼が石が岳の頂上に棲みつき雷神と風神を虜にして、勝手気ままに季節を動かし、鬼の力を示して得意になっておる」という卦が出た。

鯖河内にある放光寺という寺の住職覺善は名僧の誉れ高く、人々は厚い信頼を寄せていた。

覚善は、村人の窮状を救うため、御本尊阿弥陀如来にお縋りしようと、二十一日間断食読経の行に入った。
一日一碗の白湯以外何も口にせず、眠らず、読経を続ける、生死をかけた荒行である。
在家の人々も本堂に集まり、読経に唱和した。

二十一日目、満願の夜、命が尽きそうになりながら読経を続ける覚善の前に阿弥陀如来が姿を現した。
「やよ覚善、日頃より信心厚く、衆生の救いに心を砕くは殊勝である。これよりそなたを地獄に案内するゆえ、閻魔に会うて、悪鬼退散の知恵を受けよ。いざ、この球に従い地獄へ降りてみよ」
覚善が夢見心地でいると、阿弥陀如来のお姿はかき消えて、白く透き通る球が目の前に浮かび上がった。
覚善が球に手を伸ばすと、覚善の体は浮き上がり、奥の院の外に浮かび出たが、球に引き寄せられるまま、地の底へ潜って行った。
そこは閻魔の審判室で、すでに阿弥陀如来のお告げを受けて待っていた閻魔は、覚善を見るとこう伝えた。
「あの青鬼は、以前地獄で、釜茹での番をする鬼であった。
ある時中国で悪事の限りを尽くした妖術使いが、釜茹での刑を宣告された。
ところが妖術使いは刑を免れようと青鬼を懐柔した。つまり青鬼は妖術を教えてもらう代わりに、この妖術使いを逃したのだ。
妖術を身につけた青鬼は、虻に化けて地上に飛び出し、周防の国で暴れているようだ。ついては覚善殿にお頼みしたい。青鬼を地獄に戻していただき、地上、地下の、厳しい区切りの掟を正して頂きたい」一言も漏らすまいと聞き入る覚善に閻魔は一筋の縄を授けて
「かの青鬼の妖術は、すべて幻に過ぎぬ。それゆえ恐れることは何も無い。近くに寄ってその縄を投げつけるが良い。必ず青鬼を退治できるであろう」
覚善は縄を受けて厚く礼を述べた。閻魔に別れを告げると、再びあの球が現れ、球の先導で方光寺に戻った。
覚善が我にかえると、そこは修行していた部屋で、何一つ変わった様子もない。夢だったかと怪しんだが、覚善の腕には、閻魔から授かった縄が、しっかりと巻き付いていた。
覚善は次の間に詰めている檀家の人々の前に姿を見せていった。
「行は終わりましたぞ。お陰で阿弥陀さまからお助けをいただきました。明日は石が岳に登って鬼を退治いたしまする」
喜びの声が沸き起こり、女たちは覚善に粥を捧げていたわった。

次の朝、五月だというのに真夏のような暑さの中を、覚善を乗せた駕籠を先頭に、頂上目指して登って行った。覚善は二十一日間の荒行のため、立つこともままならなかったのである。
一行が頂上に着くと、岩屋の中から青鬼が飛び出してきた。
「ようも恐れ知らずにのこのこ登ってきたな。俺の怖さを思い知らせてやろう」青鬼は割れ鐘のような声で怒鳴り、両手を車輪のように振り回した。すると木も草も山一面が火の海と変わりめらめらと燃えだした。
駕籠を担いで来たものも、供の者も悲鳴を挙げて逃げようとしたが、覚善は落ち着き払って、「皆の衆、慌てることはない。この炎は幻じゃ。熱くありませぬ」と声を張り上げた。
すると炎はみるみる小さくなり、木も草も緑の葉を茂らせたままの姿に戻った。
青鬼は悔しそうに覚善を睨みつけて、
「おのれくそ坊主め、今度は逃れられんぞ」大岩に登って、呪いの印を結んだ。するとあたりは真っ暗闇に包まれて、大粒の霰が頭の上に降ってきた。皆は霰に打たれて右往左往した。
覚善は、落ち着き払って、
「皆の衆、騙されてはなりませぬぞ。またまた幻でござる」覚善の声にあたりを見回すと、どこにもあられに打たれた傷はなく、空は明るく晴れていた。

「ありゃ、なんじゃい、また目くらましに騙されたか」と笑い出し、少しも恐れなくなった人々を見て、青鬼は焦りだし、
「ようし今度こそうぬらを八つ裂きにしてくれよう」と叫んで姿を消したが、次の瞬間巨大な青龍が現れ、真っ赤な口から覚善めがけて炎を吹きかけてきた。覚善はこの龍こそ姿を変えた青鬼であると見破り、閻魔に授けられた縄を投げつけた。
縄は白蛇になって竜の首に巻きつき締め上げていった。皆が息を殺して見守る中、巨大な青龍は姿を消し、青鬼が現れた。その首には白い蛇が巻き付いていた。
青鬼は強がり、
「こんなひものような蛇など一捻りでちぎってやるわい」と両手に力を込めて離そうとした。しかし閻魔に授けられた縄である白蛇に敵うわけもなく、ついに息絶えて朽木のように倒れた。白蛇は姿を消し、倒れた青鬼は、一筋の青い煙となって、地に吸い込まれて行った。

覚善は皆に指図して、岩屋の奥に囚われていた風神、雷神を助け出し、鬼が奪っていた、風袋を風神に、雷鳴の太鼓を、雷神に返した。
風神雷神の喜びは限りなく
覚善の手を押し頂いて喜び合った。覚善は風神雷神に向かって言った。
「青鬼退治は、阿弥陀さまのご加護があったがゆえじゃ。これからは皆が安心して畑仕事に励めるよう、雨風を按配して貰えまいかの。まずはすぐにも雨が欲しいが、我らが帰り着いてからがええのじゃがの」
さらに覚善は、雷はなるべく家の近くには落とさないようにと雷神に頼み、季節の風はありがたいが、あまり台風はよこさないようにと風神に頼んだ。雷神も風神も、快く引き受けて、雲を呼び、天に帰って行った。

一行が村にたどり着き、覚善が本堂に入ると、待ち望んだ雨が勢いよく降り出した。村人たちは小躍りして、蓑笠をつけ、田おこしにかかった。
「さあ、二年ぶりの田植えじゃ」村は活気に溢れかえった。

その後この地方は天候に恵まれ、豊かに作物が実り平和な暮らしが続いた。
覚善和尚はそれからも村のために力を注ぎ、方光寺は霊験あらたかな阿弥陀如来に参詣する人が後をたたなかったという。


(方光寺の阿弥陀如来坐像は、鎌倉時代の特徴がよく出ている彫刻で、山口県指定文化財になっているそうです。)

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私は今朝起きたら猛烈に脚が痛くなっていました。
風邪が治らないので筋肉痛が増したようです。
夫と眼科に行くのは諦めましょう。

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昨日から、ネットの中の民話をどんどん集めてエバーノートに貼り付けています。
これらの民話は、語りに向いていますから、次回の収録は朗読なしで、全部覚えて語りましょう。
26分ぶん、小さい話を四つか五つ覚えるのは、朗読の準備で長い原稿を作るよりはるかに簡単なのです。これから選んで手直しして印刷します。




[追記]
午後、何もしないで横になり、5時半まで眠っていました。
これから夕飯は作れそうです。







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by hisako-baaba | 2018-11-14 10:36 | Comments(4)
Commented by tabigarasu-iso at 2018-11-14 12:46
初めて読む噺で、興味深く読ませて貰いました。感謝
Commented by hisako-baaba at 2018-11-14 12:57
tabigarasuさま
このお話は山口県出身の方がまとめて、86歳で出版。挿絵も題字もご自身で、見事な本になさっています。
Commented by sidediscussion at 2018-11-14 23:51
次々とレパートリーの蓄えが増えますね。

Commented by hisako-baaba at 2018-11-15 06:52
kiyokoさま
これ書き上げるのに半日かかりました。
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